「関税は中国が払う」とトランプ大統領が選挙戦で繰り返した。

現実は逆だった。米国の家計が払っている

トランプ第二期政権の関税政策、施行から 1 年。Peterson Institute の試算では、米国家計の負担は世帯あたり年 1,800 ドル増。物価上昇への寄与は +0.7pt/年

関税の累積構造

トランプ第二期で導入された主要関税:

対象関税率開始時期
中国全製品平均 30%(一部 60%)2025 年 2 月
メキシコ・カナダ一部品目 25%2025 年 3 月
鉄鋼・アルミ全般25%2025 年 4 月
自動車(EU・日本含む)10-25%2025 年 10 月
半導体製品25%2026 年 1 月

合算すると、米国の平均関税率は 1930 年代以降で最高水準。スムート・ホーリー関税法以来の保護貿易体制である。

ドル指数の動き:期待 → 失望

ドル指数(DXY)の動き:

2024 年 11 月(選挙前):105
2025 年 1 月(就任直後):110(強い米国期待で +5%)
2025 年 6 月(関税の累積効果見え始め):107
2025 年 12 月(貿易赤字悪化確認):102
2026 年 4 月(現在):97(**前年比 -8%**)

最初の半年、ドルは買われた。「米国優先」「強い米国」が市場に好感されたためだ。

だが、現実が追いついた。関税は貿易赤字を縮小させるはずが、むしろ拡大した。米国の輸入物価が上がり、輸入数量は減ったが、ドル建てでは赤字が増えた。同時に、米国製品への報復関税で輸出も減った。

筆者の見立て
「強い米国」と「ドル高」は、トランプ政権下では両立しなかった。これは過去 80 年の経験則を破った重要な事実である。

家計への打撃:3 段階

第 1 段階:商品価格上昇

スマホ・家電・衣料品など、中国製品の価格が直接 20-30% 上昇。これだけで家計負担は推定 800-1,000 ドル/年。

第 2 段階:報復関税による輸出減

中国・カナダ・EU の報復関税で、米国農産物・自動車・航空機の輸出が減少。ラストベルト・農業地帯の雇用に直接打撃

第 3 段階:ドル下落の輸入物価転嫁

DXY -8% は、輸入物価をさらに +5-7% 押し上げる。これが 日本のような輸入依存国 と類似の構造に米国を押し込んでいる。

筆者の見立て
トランプ関税は、過去 80 年の「米国は世界の安全資産」という前提を揺らがせている。

ガンドラック氏が「次の景気後退で長期金利が上がる」と警告するシナリオは、まさにこの関税+ドル下落の組み合わせを前提にしている:

関税 → 輸入物価上昇 → インフレ
インフレ → Fed が利下げできない
利下げできない → 米国成長鈍化
成長鈍化 + ドル下落 → 海外投資家の米国アセット離脱
離脱 → 長期金利上昇

これは「関税で米国を強くする」というスローガンの裏で実際に起きている連鎖だ。

円・ドル円への影響

トランプ関税は、ドル円にも複雑な影響を与える:

  1. 関税で対米輸出減 → 円の貿易需要減 → 円安方向
  2. 米国インフレで Fed 利下げ困難 → ドル金利高止まり → 円安方向
  3. ドル指数下落 → ドル全般弱化 → 円高方向

これらが拮抗し、ドル円は 150-160 円のレンジで膠着している。明確な方向感が出にくいのは、この3 つの力学がほぼ均衡しているためだ。

家計レベルで何をすべきか

トランプ関税の構造的影響を前提にした、家計の対応:

  1. 米国一極集中の見直し:S&P 500 一辺倒のポートフォリオは、ドル下落と関税逆風で二重に痛む
  2. 新興国・欧州への分散:トランプ関税で相対的に有利になる地域
  3. 金・銀の比率:通貨秩序の動揺は、実物資産の構造的支え
  4. 国内回帰した米国企業株:関税の受益者となる米国製造業

逆に、避けるべきは:

  • 「ドルは強い」前提で組んだ家計の海外送金計画
  • 中国売上比率が高い米国大型グロース(NVIDIA 等
  • 関税の波及で打撃を受ける欧州・日本の輸出株(自動車・機械)
筆者の見立て
「関税は中国が払う」というのは、政治的スローガンとしては効いた。 だが、家計レベルで毎月 150 ドル多く払っているのは、米国の納税者である。

そして、ドル指数 8% 下落の意味は、「ドル建てで持っている資産の購買力が、対外的に 8% 目減りした」ということ。日本人が NISA で買った米国株の評価額が円ベースで上がっていても、ドル自体の購買力が削られている。

「強い米国」というスローガンと、為替・物価データの乖離は、過去 1 年で確実に拡大している。次の 1 年で、この乖離が市場の主要テーマになる可能性が高い。


関税は誰が払うか、家計の食卓と給与明細がすでに語り始めている。