100 円ショップで 100 円のものが減っている。

これは数字で説明する話ではない。スーパーに行けば誰でも感じる。「あれ、これ前より高くない?」を毎週繰り返している家計が、2026 年の日本にはどれくらいあるだろうか。

日銀は長年、「日本のインフレは一時的」「持続的な物価上昇には至っていない」と言い続けてきた。だが 2026 年 4 月の展望レポートで、ついに姿勢を変えた——コア CPI 見通しを 3 年連続で 2% 超に上方修正したのだ。

これが意味するのは、技術的にはひとつだけ:日銀が長年掲げてきた「インフレ目標達成」が、2026 年に正式に達成されたということ。

「達成」したのに、なぜ家計は楽にならないのか

問題は、インフレ目標達成は家計にとっての勝利ではないことだ。

指標2020 年2026 年
コア CPI-0.4%+2.6%
平均月給(手取り)約 22 万円約 23.5 万円(+6.8%)
同期間の物価上昇基準+12%
実質購買力10095

「物価は上がった、給料も少し上がった、でも実質購買力は 5% 減った」——これが家計レベルで起きていることだ。

筆者の見立て
日銀の「目標達成」は、政策側の勝利であって、家計側の勝利ではない。むしろ、家計の購買力が静かに毀損された証拠でもある。

どの品目が、いくら上がったか

家計が感じる「物価高」を、コンビニ・スーパーの定番商品で見る:

品目2020 年2026 年上昇率
おにぎり 1 個110 円200 円+82%
食パン 1 斤150 円220 円+47%
牛乳 1L200 円290 円+45%
卵 1 パック(10 個)220 円350 円+59%
カップ麺 1 個180 円280 円+56%

これが「コア CPI +2.6%」の裏側にある現実だ。生活必需品の上昇率は、CPI 全体より遥かに高い

CPI は住宅費・通信費・教育費など「下がっているもの」も含めて平均する。家計の食卓は、そんなに分散していない。だから、家計の体感と公表 CPI の数字に乖離が出る。

筆者の見立て
「日本の物価高は本物か?」という問いに対する答えは:
  • 公表 CPI ベース:まだ「やや高い」程度(2.6%)
  • 生活必需品ベース:完全に本物。年率 5-8% 規模
  • 資産価格ベース:明確に本物。都心マンション +30-50%、株価高値圏

3 つのうち、家計の体感に最も近いのは「生活必需品ベース」。これは公式統計に表れにくいので、「日銀が認めない構造インフレ」と呼ぶのが正確である。

問題は、この「認められないインフレ」が日銀の政策判断を遅らせていることだ。家計はすでに購買力毀損を感じているのに、日銀は「まだ目標達成ぎりぎり」という認識で動く。家計と中央銀行の認識ギャップが、政策ラグの本質である。

なぜ家計の体感は CPI より高いのか

3 つの理由:

  1. CPI のウェイトが時代遅れ:通信費・家電など下がるものの比重が大きい。食料・教育・医療など上がるものの比重が小さい
  2. 品質調整(Hedonic 調整):家電やスマホの性能向上を「物価下落」と見なす計算。だが家計は「同じ機能の家電」を以前より高く払っている感覚を持つ
  3. 持ち家コスト:CPI では帰属家賃(持ち家の理論的家賃)で測るが、実勢の住宅価格上昇を反映できていない

これらが組み合わさって、「公式 CPI は 2.6% だが、家計の体感は 6-8%」という乖離を生む。

ポートフォリオへの帰結

「インフレが本物」ということは、円預金・JGB だけでは家計の購買力が守れない、ということだ。

ネイピア氏が警告する「金融抑圧」は、まさにこの局面で進行する:

  • 政策金利を物価上昇率より低く据え置く → 預金が実質目減り
  • 国民の貯蓄を国債に誘導 → 海外資産分散が困難に
  • 増税ではなく、インフレで政府債務を吸収

日本人投資家にとっての防御策は、「[「金融抑圧の本格化」を予言したネイピア氏の処方箋](/articles/napier-financial-repression-2026)」 をベースに、家計レベルで分散先を確保することに尽きる。

具体的には:

  • 実物資産(金・銀・不動産)
  • 外貨建て分散
  • インフレ連動債
  • 国際分散株式(米国一極集中ではなく、欧州・新興国も)

「インフレは一時的」と言われ続けて 4 年。家計の食卓と給与明細を見れば、もう「一時的」と信じる根拠は薄い。物価高を 構造的な現実として家計設計に組み込む時期に、日本は完全に入っている。


毎月のおにぎり 200 円は、家計簿の数字以上のものを語っている。