「投資の世界で最も高くつく4つの言葉は、『今回は違う(This time is different)』である」
バブルが形成される終盤、市場には必ずこの言葉が溢れ返る。1990年代後半のドットコム・バブルでは「インターネットが経済のルールを変えた」と言われ、2000年代半ばの住宅バブルでは「金融工学がリスクを消し去った」と言われた。そして今、AI(人工知能)革命を前に、市場は再び「今回は違う」と囁き始めている。
バリュエーションの重力は決して消えない
ジョン・テンプルトンは、新しい技術や社会の変革そのものを否定したわけではない。彼が警告したのは、そうした変革に対する「過剰な期待」が、企業の本来の価値(バリュエーション)を完全に無視した株価を正当化してしまうことの危険性だ。
ビジネスの基本原則は変わらない。企業が生み出すキャッシュフロー以上の価値は、長期的には存在しない。期待だけで買われた株は、最終的には重力に引き戻される。
「今回は違う」という言葉は、従来の財務指標(PERやPBRなど)が割高を示しているにもかかわらず、それを無視して株を買うための「都合の良い言い訳」として使われることが多い。
現在のAI関連銘柄の熱狂は、確かに実体を伴う強力なメガトレンドである。しかし、どんなに素晴らしい企業であっても、「いくらで買うか」を間違えれば投資としては失敗に終わる。
テンプルトンの警告は、「未来を信じるな」ということではない。「熱狂の代償として支払うプレミアムが高すぎないか、常に冷徹に計算せよ」ということだ。市場参加者の多くが「過去の指標はもう当てにならない」と言い始めた時こそ、我々は最も警戒レベルを引き上げるべきである。
歴史は繰り返さないが、韻を踏む
金融の歴史において、全く新しい出来事が起こることは稀だ。人間の貪欲さと恐怖という感情が変わらない限り、市場は行き過ぎた楽観と極度の悲観の間を振り子のように行き来する。
テンプルトンが愛したアプローチは、「群衆が熱狂している時には売り、群衆が絶望している時に買う」というシンプルなものだった。「今回は違う」という幻想に酔いしれる市場の中で、一人冷静に歴史の教訓を思い出すこと。それこそが、長期的に生き残る投資家の条件である。