「もし私に、人間の行動を予測するシステムを一つだけ選べと言われたら、私は迷わず『インセンティブ(報酬の仕組み)』を選ぶ。インセンティブの持つ強烈なパワーを、決して見くびってはいけない」

チャーリー・マンガーがハーバード大学で行った伝説的なスピーチ『人間の誤判断の心理学』の中で、彼が最も時間を割いて警告したのが、この「インセンティブが引き起こす歪み」である。2026年の金融市場において、我々が目にする数々の不条理な出来事は、すべてこの一つの力学で説明がつく。

なぜプロの助言は役に立たないのか

投資家はしばしば、ウォール街の証券マンやアナリストにアドバイスを求める。しかしマンガーは、「手数料を稼ぐことで食っている人間に、資産をどう守るべきか聞いてはいけない」と断言する。

証券会社のブローカーのインセンティブは『あなたが儲かること』ではなく『あなたが頻繁に取引をして手数料を落とすこと』だ。散髪屋に行って『私は髪を切るべきだろうか?』と聞いてはいけないのと同じだ。答えは決まっている。

— Charlie Munger

同様に、企業のCEOの報酬が「短期的な株価」に連動している場合、彼らは長期的な研究開発費を削ってでも、自社株買いを行って見かけの株価を吊り上げようとするだろう。それは彼らが邪悪だからではなく、単に「インセンティブの設計」がそうさせているからだ。

筆者の見立て

我々が企業の株を買う時、「このビジネスは素晴らしいか」だけでなく、「このビジネスを動かしている人々のインセンティブはどうなっているか」を必ず確認しなければならない。

創業者や経営陣が自社株を大量に持ち、長期的な保有を義務付けられている企業と、ストックオプションをすぐに現金化できるプロ経営者が率いる企業では、数年後の結末は全く異なるものになる。マンガーが言うように、「どのようなインセンティブが働いているかを見れば、その結果は予言できる」のである。

自己欺瞞の恐怖

インセンティブの最も恐ろしい点は、それが「意図的な悪意」だけでなく「無意識の自己欺瞞」を引き起こすことだ。人間は、自分の利益になることを「正しいこと」だと無意識に思い込む性質がある。

「私はこれまで、自分のインセンティブによって完全に道徳的なコンパスが狂ってしまった人間を山ほど見てきた」とマンガーは振り返る。

投資の世界で生き残るための最初のステップは、市場に関わるすべての人間(自分自身を含む)が、どのようなインセンティブによって動かされているかを冷徹に見極めることだ。それこそが、マンガーが残した最大の防衛策である。