世界で最も高度な半導体——AI、スマホ、自動車、軍事——の 92% が、ひとつの島で作られている。
台湾である。
世界の HBM(AI 用高帯域メモリ)の 60% は、もうひとつの場所で作られている。
韓国・SK ハイニックスである。
このふたつが止まれば、世界の経済活動は数週間で停止する。
台湾有事のシミュレーション
CSIS(米国・戦略国際問題研究所)の 2026 年シミュレーションは、台湾海峡危機の経済影響を以下と試算する:
| シナリオ | 期間 | 世界 GDP 影響 |
|---|---|---|
| 海上封鎖(戦闘なし) | 3-6 ヶ月 | -3〜-5% |
| 限定的軍事衝突 | 1-3 ヶ月 | -7〜-10% |
| 全面戦争・台湾占領 | 12 ヶ月以上 | -10〜-20% |
リーマンショック級が「軽い」シナリオ。最悪シナリオは、世界経済の 15-20% 蒸発を意味する。
これが「地政学プレミアム」の現実的な意味だ。
なぜ TSMC が 92% なのか
最先端ノード(3nm 以下)の量産能力:
| 企業 | 国 | シェア |
|---|---|---|
| TSMC | 台湾 | 92% |
| Samsung Foundry | 韓国 | 7% |
| Intel | 米国 | 1%(試作レベル) |
TSMC は単に「最大手」ではない。実質的に独占している。
理由は単純:
- 30 年の技術蓄積:1987 年創業、ファウンドリ専業として最先端を追い続けた
- 顧客との共生関係:Apple, Nvidia, AMD, Qualcomm 全部 TSMC 依存
- 巨額の設備投資:年 300 億ドル超を継続、追随できる企業がない
- 人材集中:台湾の理工系トップ層がほぼ TSMC
「米国 CHIPS 法で TSMC アリゾナ工場が立ち上がる」という話はあるが、完全に稼働するのは 2028-2030 年。それまで台湾は「世界の急所」のままだ。
韓国の役割:HBM の 60%
AI 革命のもう一つの鍵は HBM(High Bandwidth Memory)。NVIDIA H100/H200 ・ AMD MI300 等の AI チップに不可欠。
HBM 市場シェア:
| 企業 | 国 | シェア |
|---|---|---|
| SK ハイニックス | 韓国 | 60% |
| Samsung | 韓国 | 25% |
| Micron | 米国 | 15% |
つまり、韓国だけで HBM の 85%。AI 用 GPU が必要とするメモリは、ほぼ韓国で作られている。
NVIDIA が 1 個 H100 を出荷するたびに、SK ハイニックスの HBM が含まれている。
3 つの地政学リスクが集中
韓国・台湾の不確実性要因:
1. 中国の台湾統一圧力
習近平体制の「中国の夢」に台湾統一が含まれている。軍事的圧力は年々強まり、2026 年は中国海軍の台湾海峡通過が過去最多。
2. 北朝鮮の挑発・核開発
2025-2026 年で短距離弾道ミサイル発射が 48 回。韓国は地政学リスクが恒常化している。
3. 韓国・台湾の選挙不確実性
韓国は 2027 年に大統領選、政権交代で対中・対北朝鮮政策が大きく揺れる可能性。台湾は 2028 年総統選、民進党・国民党の政策差が大きい。
- 経済的に:最先端半導体の 90%+ を支配、世界経済の急所
- 地政学的に:中国の野心、北朝鮮の挑発、米国の防衛コミットメント
この組み合わせは、過去の歴史にない構造である。
ドラッケンミラー氏が日本株・韓国株への構造的ロングを語っている背景には、この韓国・台湾の絶対的な経済的重要性がある。「地政学リスクが高いから売る」のではなく、「地政学リスクが高くても買わざるを得ない」状況だ。
家計レベルでの 3 つの考え方
1. TSMC・SK ハイニックスの保有意義
米国 ETF(VTI 等)には TSMC は含まれない(米国上場ではないため)。日本人投資家が直接持つには:
- ADR 経由(TSM):米国市場で買える、流動性高い
- 韓国 ETF(EWY):韓国大型株分散、SK ハイニックス含む
- 台湾 ETF(EWT):台湾大型株分散、TSMC が最大ウェイト
2. 「台湾有事」リスクへの対応
完全にヘッジするのは不可能。だが、ポートフォリオの一部に:
- 防衛セクター(日本の三菱重工・川崎重工、米国 RTX 等)
- 金・銀(地政学プレミアム上昇時の逃避先)
- 「TSMC が止まっても困らない企業」(Intel ・ 日本のソニーセミコン等の代替候補)
3. 日本株への波及
台湾有事になれば、日本の半導体製造装置メーカー(東京エレクトロン・アドバンテスト・ディスコ)も連鎖で打撃。逆に、「半導体国産化」のテーマで国策銘柄が買われる可能性もある。
「世界経済の急所として、避けて通れない地域」 という認識を、家計のポートフォリオに組み込むかどうか。組み込むなら、その地政学リスクと経済的重要性の両方を理解する。
避けるなら、世界経済の本当の動力源を知らないまま投資することになる。
米中半導体冷戦の第二幕が深まるほど、韓国・台湾の戦略的価値は上がる。同時に、地政学リスクも上がる。価値とリスクが同時に上がる——これがこの 2 カ国の本質である。
世界の最先端半導体の 92% が、面積で言えば九州と四国の中間くらいの島で作られている。この事実を直視しないポートフォリオ設計は、2026 年以降、機能しない。