「現金は酸素のようなものだ。普段は誰も気にしないが、無くなった時に初めてその大切さに気づく。」
オマハの賢人、ウォーレン・バフェットが率いるバークシャー・ハサウェイの現預金(短期米国債を含む)が、2026年の年次株主総会で過去最高水準に達したことが明らかになった。市場が史上最高値圏で推移する中、この巨額のキャッシュポジションは、バフェットが現在の市場バリュエーションに対して「安全な投資先」を見出せていないことを雄弁に物語っている。
魅力的な投資先がないという現実
バフェットはこれまでも、「魅力的な価格で素晴らしい企業が買えない時」には、無理に投資を行わず現金を積み上げる戦略をとってきた。
今の市場で、私たちが『これは絶対に買いたい』と思えるような企業や事業は非常に少ない。我々はバットを振る機会を待っているが、ストライクゾーンに球が来ていないのだ。
この発言は、現在の米国株市場全体が長期的な平均PER(株価収益率)を大きく上回っていることと無関係ではない。AIブームなどに牽引され一部のテクノロジー株が相場を牽引する一方で、バリュー投資家にとっての「安全域(Margin of Safety)」は極端に狭まっている。
バフェットの現金積み上げは、「相場が崩れる」という明確なショートコール(売り推奨)ではない。しかし、「今の価格ではリスクに見合うリターンが得られない」という強烈なメッセージである。
過去の歴史を見れば、彼が現金を積み上げた後には、しばしば魅力的な買い場(市場の調整や暴落)が訪れている。2008年の金融危機時、彼がゴールドマン・サックスなどの優先株を有利な条件で引き受けられたのは、まさに「誰もが酸素(現金)を求めている時に、酸素ボンベを持っていた」からだ。 我々一般投資家も、フルインベストメント(全額投資)ではなく、ある程度の現金比率を確保しておく重要性を再認識すべき時期に来ている。
Tビルの高い利回りが現金の魅力を高める
バークシャーが現金を積み上げているもう一つの理由は、短期米国債(Tビル)がかつてないほど高い利回りを提供していることだ。
かつての「ゼロ金利時代」には、現金を持っていることは実質的な価値の目減りを意味した。しかし、インフレ抑制のために高金利が続く現在の環境下では、リスクを取らずとも年間数パーセントの確実な利回りが得られる。
現状の金利水準において、この巨大な現金を保有し続けることにペナルティはない。むしろ、忍耐強く待つことへの報酬が支払われているようなものだ。
バフェットのこの言葉は、焦ってリスク資産に資金を投じる必要がないことを示唆している。「オマハの賢人」は、ストライクゾーンのど真ん中に絶好球が来るその日まで、静かにバットを構えたまま待ち続けるつもりだ。