「フィッチの格下げは恣意的であり、古いデータに基づいている。米国債は世界で最も安全な資産であり、それは変わらない」

2023年8月1日、フィッチ・レーティングスが米国の長期外貨建て発行体デフォルト格付けをAAAからAA+に引き下げた。イエレン財務長官は即座に「強く反対する」という声明を出した。

フィッチが格下げした理由

フィッチが挙げた理由は3つだった。

  1. 財政ガバナンスの悪化: 債務上限を巡る政治的なチキンゲームの繰り返し
  2. 政府債務の拡大: GDP比120%超(先進国で日本に次ぐ高水準)
  3. 中期的な財政見通しの悪化: 高齢化と社会保障費の増加

格下げは、今後3年間の財政悪化予測と、繰り返される債務上限の瀬戸際戦術による政府ガバナンスの低下を反映している。

— Fitch Ratings, 2023年8月1日

イエレンの反論とジレンマ

イエレンの反論は力強かったが、彼女が直面するジレンマは深刻だった。財務長官として米国債の信認を守る義務がある一方、財政赤字は彼女の在任中に拡大し続けていた。

2023年度(10月末締め)の財政赤字は約1.7兆ドル。これはパンデミック対応の特殊要因を除けば、過去最大水準だ。イエレンは「経済が好調だから税収も増える」と主張したが、支出の増加ペースがそれを上回っていた。

筆者の見立て

2011年にS&Pが初めて米国債を格下げした時、市場は大きく動揺した。しかし2023年のフィッチ格下げでは、市場の反応は限定的だった。これは「慣れ」なのか「無視」なのか。

日本の投資家にとっての含意:日本の政府債務はGDP比260%であり、米国の120%をはるかに上回る。もしフィッチの論理を日本に適用すれば、日本の格付けはもっと低くなるはずだ(実際、フィッチの日本格付けはA)。

しかし、日本国債の95%以上は国内で消化されており、外国人投資家の売り圧力を受けにくい。米国債は約30%が外国人保有であり、この構造の違いが格付けの意味を変えている。

国債発行戦略の変化

格下げ後、イエレンは国債の発行戦略を微調整した。長期債の発行比率を抑え、短期債(T-Bill)の発行を増やした。これは「長期金利の上昇を抑えたい」という意図の表れだったが、ベッセント氏らからは「短期債への過度な依存は借り換えリスクを高める」と批判された。

財務長官の仕事は、単に「国債を売る」ことではない。最適な年限構成で、最低のコストで、市場の安定を維持しながら資金を調達することだ。これは金融工学と政治のバランスが問われる極めて高度な業務だ。