「SVBの破綻は、氷山の一角に過ぎない。真の問題は水面下で膨張し続けている」

2023年5月、シンガーはSVB(シリコンバレー銀行)破綻から2ヶ月後のタイミングで投資家レターを発出した。市場がすでに銀行危機を「過去のもの」として忘れかけていた時期だ。

「隠れた損失」の規模

シンガーが指摘したのは、米国の銀行システム全体が抱える未実現損失だ。金利上昇により、銀行が保有する債券の市場価値は額面を大幅に下回っていた。

米国の銀行システム全体の未実現損失は約6,200億ドルに達している。SVBはたまたまこの問題が最初に表面化した銀行に過ぎない。預金者がパニックすれば、他の銀行でも同じことが起きる。

— Paul Singer, 2023年5月 投資家レター

さらにシンガーが警戒したのは、規制の死角にあるプライベートクレジット市場だ。

  • プライベートクレジット市場の規模: 約1.5兆ドル(2023年時点)
  • 銀行規制の強化で銀行が手を引いた融資を、規制の緩い民間ファンドが肩代わり
  • これらの融資は市場で取引されないため、損失が見えにくい
筆者の見立て

シンガーの「プライベートクレジットへの警告」は、2024-25年にかけて徐々に現実味を帯びている。この市場に投資する日本の年金基金や機関投資家は、流動性リスク(売りたい時に売れないリスク)を真剣に検討すべきだ。

個人投資家レベルでは、高利回りを謳う「プライベートクレジットファンド」への投資は慎重であるべきだ。リスクが見えにくいからこそ、危機の時に最も痛い損失を生む。

「嵐に備える」ポートフォリオ

シンガーの投資戦略は「嵐が来ることを前提に組む」ことだ。エリオットのポートフォリオは常に、株式ロング、ディストレス債(破綻企業の債券)、アクティビスト投資、コモディティを組み合わせた多角的な構成となっている。

「楽観は快適だが、悲観は利益を生む」——シンガーのこの格言は、2023年の金融環境で特に重みを持つ。