「我々は、過去40年間のほぼすべてのマクロ前提が崩壊しつつある時代に生きている」

2022年秋、ポール・シンガーは投資家レターでこの警告を発した。エリオット・マネジメントは運用資産560億ドルを誇る世界最大のアクティビスト・ファンドであり、シンガーの言葉は市場関係者に常に注目されている。

40年の大前提が崩壊する

シンガーが指す「40年の前提」とは以下だ。

  • 低インフレ: 1980年以降、先進国のインフレは一貫して低下してきた
  • 金利低下トレンド: 米10年債利回りは16%(1981年)から1.5%(2020年)まで低下
  • グローバリゼーション: 世界貿易の拡大がコストを抑制し続けた
  • 中央銀行の万能性: 危機のたびにFRBが利下げ+量的緩和で市場を救済

これらの前提のすべてが、今同時に崩壊している。インフレは構造的に高止まりし、金利は上昇に転じ、世界は分断され、中央銀行は信認を失いつつある。これは「一時的な調整」ではなく、パラダイムの転換だ。

— Paul Singer, 2022年 投資家レター

実物資産への回帰

シンガーは、この環境下で「紙の資産」(株式、債券)から「実物資産」への回帰を推奨した。コモディティ、エネルギー、金——紙幣の価値が下がる世界では、物理的に存在する資産の価値が相対的に上昇する。

特に注目したのはエネルギーセクターだった。「ESG運動が化石燃料への投資を抑制した結果、供給不足が構造化している。エネルギー企業は向こう10年間、最もリターンの高いセクターになる」

筆者の見立て

シンガーの2022年秋の予測を今振り返ると、その先見性が際立つ。彼が「実物資産への回帰」を説いた時点で、多くの投資家はまだ「テック株の復活」を夢見ていた。しかし2023-24年にかけて、コモディティ価格(特に金と原油)は大幅に上昇し、シンガーのテーゼは正しさを証明した。

日本の投資家への含意:日本は資源輸入国であり、実物資産の価格上昇はコスト増として家計を直撃する。しかし逆に言えば、ポートフォリオに資源関連資産を組み込むことで、この構造的な変化を「味方」にすることもできる。

アクティビストの矜持

シンガーのもう一つの顔は「アクティビスト投資家」だ。ソフトバンク、ヒュンダイ、Twitter(エリオットはジャック・ドーシーのCEO解任に関与)など、彼の標的は常に話題を呼ぶ。

「企業のガバナンスが壊れている場合、外部からの圧力が唯一の改善手段だ」——この信念が、シンガーの投資スタイルの根幹にある。