「金利は十分に制限的な水準に達した。問題は、この水準をどれだけ長く維持するかだ」
2023年10月、ラガルドは14ヶ月に及ぶ利上げサイクルの終了を事実上宣言した。預金ファシリティ金利は4.00%で据え置き——2022年7月の-0.50%から、わずか14ヶ月で4.50%ポイントの急激な引き上げだった。
「Higher for Longer」宣言
ラガルドのメッセージは明確だった。利上げは終わったかもしれないが、利下げはまだ遠い。FRBのパウエルと同様、「higher for longer(高金利の長期維持)」が新しい合言葉になった。
金融政策の効果が経済に完全に浸透するには、通常12-18ヶ月かかる。我々はまだその途中にいる。早すぎる利下げは、これまでの努力を水泡に帰す。
ドイツのリセッションとの板挟み
ECBが金利を据え置いた背景には、ドイツ経済の深刻な減速がある。欧州最大の経済大国は、エネルギー危機と中国需要の減退で製造業が急速に縮小していた。
- ドイツ製造業PMI: 38.8(50以下は縮小)——2020年以来の最低水準
- ユーロ圏GDP成長率: Q3は前期比+0.1%——事実上のゼロ成長
- しかしコアインフレ: 依然として4.2%——目標の倍以上
ラガルドは「景気後退のリスクを認識しているが、インフレを2%に戻すことが最優先」と述べた。しかし現実には、ユーロ圏は「スタグフレーション(景気後退+インフレ)」の入り口に立っていた。
ECBの10月決定は、中央銀行にとっての「最も難しい局面」を象徴している。利上げは「もう十分」かもしれないが、利下げは「まだ早い」。この狭間で、経済が悪化していくのを見守るしかない。
日本の投資家にとって、欧州の「higher for longer」は二つの意味を持つ。第一に、欧州経済の減速は輸出企業(自動車、精密機器)の業績に影響する。第二に、ECBが利下げに転じれば、ユーロ安→円高の圧力が生じ、欧州株投資の為替リターンが毀損される。
欧州投資を検討するなら、「金利サイクルの転換点」を見極めることが鍵だ。ラガルドが利下げを示唆し始めた瞬間が、最も注意すべきタイミングとなる。
中央銀行家の孤独
10回の利上げの間、ラガルドは南欧諸国の政治家から激しい批判を受けた。イタリアのメローニ首相は「ECBの利上げがイタリアの家計を苦しめている」と公言した。しかし、中央銀行の独立性は政治からの圧力に屈しないことで成り立っている。
ラガルドがこの記者会見で見せた毅然とした態度は、金利の数字以上に重要なメッセージだった。「我々は政治家のためではなく、物価安定のために仕事をしている」。