経済学の基本:需要が減れば、価格は下がる。

日本の人口は 2010 年代から減り続けている。2026 年の年間減少率は -1.2%(約 150 万人)。世帯数も縮小に転じた。

教科書通りなら、住宅価格は下がっているはず。だが、東京カンテイの調査では、都内マンション平均価格は過去 5 年で +47%。新築マンションの坪単価は 750 万円超、史上最高値圏で推移している。

この矛盾は何か。

3 つの構造要因

1. 外国人購入の急増

東京都心 5 区(千代田・中央・港・新宿・渋谷)の新築マンション購入者の 15-20% が外国人。中国・台湾・香港・シンガポール・米国からの富裕層が、東京の不動産を「ドル建てで割安な避難先」として購入している。

理由は単純:

  • ドル円 156 円で、円建てマンションが割安に見える
  • 中国の不動産バブル崩壊で、海外への資金逃避加速
  • 政治的安定(東京は地政学的に安全)
  • 日本の不動産取得は外国人にも事実上自由

2. 建築費の構造的上昇

項目2020 年2026 年上昇率
鉄筋(トン)75,000 円130,000 円+73%
セメント(トン)12,000 円18,500 円+54%
大工日給22,000 円32,000 円+45%
設備工事費基準+60-80%

建築費が 50-70% 上昇しているから、新築マンションを建てるだけで坪 600 万円が必要。デベロッパーは利益を取れない価格では建てない。

3. 超低金利の構造支援

日銀の超低金利は、住宅ローン金利を構造的に低く保ってきた:

  • 35 年固定:1.7-2.0%
  • 変動金利:0.4-0.7%

月収 60 万円の世帯が、月 20 万円のローン返済で 8,000 万円のマンションを買える計算。金利が高ければ買えない価格を、低金利が買えるものにしている構造である。

筆者の見立て
人口減少 = 住宅価格下落、という単純な因果関係は、過去 30 年の日本経験から見ても成立していない。

理由は、住宅市場が 「世帯数」ではなく「世帯の購買力 × 金利環境 × 外国人需要」 の総合関数で動くからだ。

人口減少の影響は、都心と地方で完全に分断されている:

地域価格動向(2020-2026)
東京 23 区+47%
神奈川・横浜+18%
大阪市内+25%
名古屋市内+12%
地方都市-5〜+5%
地方郊外-15〜-30%

「日本の住宅価格」という単一の指標では、もう市場を測れない。都心と地方で完全に別市場になっている。

都心価格が下がる条件

都心マンション価格が下落するシナリオを 3 つ:

1. 日銀利上げによる金利上昇

植田総裁が利上げに踏み込めば、住宅ローン金利は 0.5pt 上昇する可能性。月返済額が増え、買える価格が下がる。

2. 円高による外国人購入の停止

ドル円が 130 円台に戻れば、外国人購入者にとって「円建てマンションが急に高く見える」。需要が一気に消える。

3. 中国不動産危機の波及

中国本土の富裕層が、日本不動産売却で資金を中国本土に戻す動き。これは「外国人売り」が一斉に出るシナリオ。

これら 3 つのうち、どれかが起きれば都心マンション価格は 15-25% 調整する可能性がある。複数同時なら 30-40% もありうる。

家計の選択肢

筆者の見立て
「家を買うべきか」という問いは、2026 年現在、過去 30 年と全く違う質感を持つ。

過去 30 年の日本では、「家を買う = 安全」が常識だった。インフレ・金利・人口の変数が、すべて安定していたからだ。

2026 年は違う。3 つすべてが動いている:

  • インフレ:低 → 高
  • 金利:ゼロ → 利上げ方向
  • 人口:減少加速

「都心の家を住宅ローン 35 年で買う」というのは、3 つの変数が安定していた時代の合理的選択だった。3 つすべてが動く時代では、リスクと機会が両方拡大する。

賃貸 vs 持家、新しい考え方

家計レベルの分析の 4 軸:

  1. 流動性:いつでも引っ越せるか
  2. 金融負担:ローン金利上昇に耐えられるか
  3. 資産価値:地域別に下落しないか
  4. 生活設計:教育・親の介護で動く必要があるか

過去は「持家圧倒的有利」だったが、2026 年現在:

  • 都心・駅近:持家がまだ有利(外国人需要・建築費下限)
  • 郊外・地方:賃貸が有利(人口減で価格下落リスク)
  • 転勤・転職多い世代:賃貸の流動性価値が上がる
  • 教育費ピーク世代:固定費を抑える賃貸が現実的
筆者の見立て
「家を買えば安泰」というナラティブは、過去 30 年の特殊な環境が作り出したものだった。それが終わりつつある。

2026 年に家を考える家計は、「買う/買わない」の二択ではなく、「どの地域で、どの金利環境で、どの世代の購買力を背景に買うか」を真剣に分析する必要がある。

都心のタワーマンションが上がり続けるシナリオは、外国人需要・低金利・建築費高止まりが続く前提。3 つのうちどれかが崩れたとき、何が起きるかを家計設計に組み込むのが、2020 年代後半の家計の責任である。


人口は減り続け、不動産は上がり続ける。この矛盾の中身を理解した家計だけが、次の調整を生き残れる。