「企業の取締役会は、本来株主の利益を代表すべき存在だ。しかし現実には、CEOのゴルフ仲間が並んでいるだけのことが多い。彼らは株主ではなく、CEOの味方だ」
カール・アイカーンは、1980年代からウォール街で最も恐れられる「コーポレート・レイダー(企業乗っ取り屋)」として活動してきた。TWA航空、テキサコ、RJRナビスコ、Apple、eBay、Xerox——彼が標的にした企業は100社を超える。
アクティビズムの3ステップ
私のやり方はシンプルだ。第一に、割安な企業を見つける。第二に、なぜ割安なのかを特定する——ほとんどの場合、答えは「経営が悪い」だ。第三に、経営を変えるために必要な株式を取得し、取締役会に圧力をかける。
具体的なプロセス:
- 株式の大量取得: 発行済み株式の5-15%を静かに購入
- 13D提出: SEC(証券取引委員会)に「アクティブな意図を持った大株主」として届出
- 要求の提示: 取締役の交代、自社株買い、事業売却、配当増額などを要求
- プロキシファイト(委任状争奪戦): 要求が拒否された場合、他の株主の支持を集めて取締役を交代
Apple への介入(2013年)
アイカーンの最も注目された投資の一つが、2013年のApple株大量取得だ。当時のAppleは時価総額4,000億ドルで、現金を1,600億ドルも貯め込んでいた。
アイカーンの主張:「Appleは世界最高の企業だが、1,600億ドルの現金を寝かせているのは経営の怠慢だ。自社株買いと配当で株主に還元すべきだ」
結果:ティム・クックCEOはアイカーンの圧力を受け、大規模な自社株買いプログラムを開始。Apple株はその後5年で3倍以上に上昇した。
アイカーンのアクティビズムは、日本でもようやく浸透し始めている。2023年、エリオット・マネジメントが東芝に、バリューアクトがオリンパスに介入した。東証のPBR1倍割れ改善要請も、広い意味では「アクティビズムの制度化」だ。
日本の個人投資家がアクティビスト銘柄に投資するメリット:
- カタリスト(株価上昇の触媒)がある: アクティビストの介入は、割安放置されていた株の再評価を促す
- ダウンサイドが限定的: そもそも割安な株が対象のため、さらに下がるリスクは小さい
- 大量保有報告書で追跡可能: EDINETで外国人投資家の大量保有報告を確認できる
注意点:アクティビストが敗北して撤退すると、株価が元に戻るリスクもある。アクティビストの実績と戦略を見極めることが重要だ。
「株主資本主義」の体現者
アイカーンは批判も多い。「短期利益のために企業を解体している」「従業員の利益を無視している」。しかし彼の反論は一貫している。「企業は株主のものだ。経営者が株主価値を毀損しているなら、是正するのは株主の権利であり義務だ」
この「株主資本主義」の思想は、ESGやステークホルダー資本主義の台頭で揺らいでいるが、アイカーンは87歳を超えた今でも戦い続けている。