「次の金融危機は、2008年よりもはるかに深刻なものになる。なぜなら、2008年に使った手段(量的緩和、ゼロ金利)がもう使えないからだ」
ジム・ロジャーズは楽観主義者として知られるが、金融システムの脆弱性については一貫して悲観的だ。彼の警告の核心は「紙の資産は政府の一筆で価値を失うが、現物資産は物理的に存在し続ける」というシンプルな原理にある。
「次の危機」が2008年より深刻になる理由
2008年、世界の政府債務は約30兆ドルだった。現在は90兆ドルを超えている。中央銀行のバランスシートは10倍に膨張した。次に危機が来た時、もう弾は残っていない。金利はすでに低く、政府はすでに破綻寸前の財政状態だ。2008年に「最後の手段」として使った政策が、もう使えない。
ロジャーズが指摘する「次の危機の引き金」:
- 政府債務の限界突破: 主要国の平均政府債務はGDP比100%超
- 年金制度の崩壊: 日本、欧州、米国の年金基金は構造的に資金不足
- 地政学の断裂: 米中対立、ロシア・ウクライナ戦争が世界経済を分断
- デリバティブの時限爆弾: OTCデリバティブの想定元本は約600兆ドル
なぜ農地と金を持つのか
ロジャーズのポートフォリオの中核は農地と金だ。
「農地は人類が存在する限り価値がある。食料は景気が良くても悪くても必要だ。そして農地は増やせない。むしろ毎年減っている。これ以上のインフレヘッジがあるだろうか」
金についても同様の論理だ。「金は5,000年間、人類が価値を認めてきた唯一の資産だ。政府が紙幣を刷っても金は増えない。中央銀行が破綻しても金は残る」
ロジャーズの資産配分の概念:
- 現物資産(農地、金、銀): ポートフォリオの30-40%
- 株式(コモディティ関連、アジア株): 30-40%
- 現金(複数通貨で分散): 20-30%
- 債券: ほぼゼロ(「金利が上がる世界で長期債は自殺行為」)
ロジャーズの「全面崩壊」シナリオは極端に聞こえるかもしれないが、備えとしてのポートフォリオ構築は合理的だ。
日本の個人投資家にとっての実践法:
- 金の現物積立: 三菱マテリアルや田中貴金属で月3,000円から可能
- 農地REITまたは農業ETF: 直接農地を買うのは難しいが、DBAなどで代替可能
- 通貨の分散: 円だけでなく、ドル、スイスフラン、金で資産を分散
- 食料備蓄: 極端なシナリオへの最低限の備え
ロジャーズは「準備しすぎて損をすることはない」と言う。保険のように、使わずに済めばそれが最善だ。
シンガポールへの移住
ロジャーズが2007年にニューヨークからシンガポールに移住したことは、彼の「全面崩壊」への備えの一環だ。「21世紀はアジアの世紀だ。私の娘たちがチャンスを掴むためには、アジアにいる必要がある」
しかし同時に、米国の財政崩壊リスクを意識した地理的分散でもあった。「一つの国、一つの通貨に全財産を置くのは、一つの銘柄に全額投資するのと同じくらい愚かだ」