「利上げの一時停止は、利上げサイクルの終了を意味しない」

2023年6月14日、パウエル議長は記者会見の冒頭でこう宣言した。市場は「スキップ=終了」と読みたがっていたが、議長はその期待を即座に打ち砕いた。

「タカ派スキップ」という矛盾

通常、利上げを停止すれば市場はハト派と受け取る。しかしパウエルはこの日、異例の戦術を採った——利上げを止めながら、言葉ではさらなる引き締めを予告する。ドットプロット(金利予測分布図)は年内あと2回の利上げを示していた。

我々はかなりの道のりを急速に進んできた。ここで少し立ち止まり、追加データを確認することが理にかなっている。ただし、インフレが2%に戻るまでの道のりはまだ長い。

— Jerome Powell, 2023年6月FOMC記者会見

市場はこの発言を「タカ派スキップ(hawkish skip)」と名付けた。利上げを一回飛ばしただけで、サイクルは終わっていない——という意味だ。

なぜ「止めて、脅す」必要があったのか

背景には、2023年3月のシリコンバレー銀行(SVB)破綻がある。急激な利上げが地方銀行のバランスシートを破壊し、金融システム全体がストレスを受けた。Fedは「利上げを続けたいが、銀行を壊したくない」というジレンマに直面していた。

解決策が、行動では止め、言葉では脅すという二重戦略だった。

  • 政策金利: 5.00-5.25%で据え置き(10会合ぶり)
  • ドットプロット: 年末予測を5.6%に引き上げ(あと2回分)
  • 声明文: 「追加的な政策引き締めがどの程度適切か判断する」
筆者の見立て

パウエルのこの日の戦術は、FRBの苦悩を凝縮していた。インフレは依然として目標の倍以上だが、利上げの副作用は金融システムを壊し始めている。「口先で金利を上げる」というのは、中央銀行にとって最後の手段に近い。

日本の投資家にとっての教訓は、Fedの「一時停止」を「終了」と読み替えてはいけないということだ。2023年6月に「利上げ終了」と判断してリスク資産に飛びついた投資家は、その後7月にさらなる利上げを食らうことになる。

日米金利差と円の行方

この時点での日米金利差は約5%。日銀がゼロ金利を維持する中、Fedが「あと2回上げる」と予告したことで、ドル円は翌日140円台後半へ上昇した。

日本の家計にとって、これは「海外旅行がさらに高くなる」だけの話ではない。輸入物価を通じて、食品・エネルギー価格に直接転嫁される構造的な問題だ。2023年6月時点で、日本のスーパーの食パン1斤は平均178円。1年前の152円から17%上昇していた。

パウエルがワシントンで「インフレとの戦いは終わっていない」と語るとき、東京のスーパーのレジでは、その戦いの余波が毎日の買い物に反映されている。