「ドルが弱くなっているのではない。ドル・システムそのものが、設計寿命の末期にある」
アラスデア・マクラウドはGoldMoneyのリサーチ・ディレクターであり、通貨と信用の歴史について40年以上の研究歴を持つ。彼の分析は、短期的な市場予測ではなく、通貨システムの構造的な分析に特徴がある。
ドル基軸通貨体制の寿命
マクラウドの主張の核心は、過去5,000年の歴史において、不換紙幣(fiat currency)が長期的に価値を保った例は一つもないということだ。
ローマ帝国のデナリウス銀貨、宋朝の交子、ワイマール共和国のマルク——すべての不換紙幣は最終的に価値を失った。ドルは1971年に金との兌換を停止して以来、購買力の98%を失っている。残り2%が失われるのは時間の問題だ。
マクラウドはこの議論を「オオカミ少年」ではなく、数学的必然として展開する。政府の債務が指数関数的に増加し、それを賄うために通貨供給量が増え、結果として通貨の購買力が低下する——このサイクルに終わりはない。
金が「上がる」のではなく、通貨が「下がる」
金価格をドル建てで見ると「金が上がった」ように見える。しかしマクラウドは、これを逆に読むべきだと主張する。
- 1971年: 金1オンス = 35ドル → ドルの金に対する価値は100%
- 2023年: 金1オンス = 約2,000ドル → ドルの金に対する価値は1.75%
「金は5,000年間、ほぼ同じ購買力を維持してきた。1オンスの金で高級スーツ1着が買えるという関係は、ローマ時代から変わっていない」
マクラウドの議論は極端に聞こえるかもしれないが、その根底にあるロジックは反論が難しい。通貨の長期的な購買力低下は統計的事実だ。
ただし、タイミングに注意が必要だ。ドル・システムが「寿命末期」だとしても、崩壊が10年後なのか50年後なのかで、投資戦略は全く異なる。マクラウドはこのタイミングの曖昧さを認めている。
日本の投資家にとっての実用的示唆:円もドルも長期的に購買力を失うなら、購買力を保存する手段(金、不動産、優良企業の株式)に資産の一部を移すことは合理的だ。全額を金に替える必要はないが、「通貨だけ」で資産を保有するリスクは認識すべきだ。
信用創造と金の関係
マクラウドの分析で独自なのは、信用創造(credit creation)に焦点を当てている点だ。現代の通貨システムでは、銀行が融資を行うたびに「無」から通貨が生まれる。この信用創造の規模が拡大すればするほど、通貨の実質的な価値は希薄化する。
「金は信用リスクを持たない唯一の金融資産だ。銀行預金は銀行が破綻すれば消える。国債は政府がデフォルトすれば紙くずになる。しかし金は、保管さえ適切であれば、永遠にその価値を保つ」