「5%の10年債利回りを『異常』と呼ぶ人がいるが、異常だったのは過去10年間のゼロ金利の方だ」
ジェフリー・ガンドラックは、運用資産950億ドルを誇るDoubleLine Capitalの創業者であり、ビル・グロスに代わる「新・債券王」として知られる。彼の2023年中間見通しは、債券市場の常識を根本から覆すものだった。
40年トレンドの終焉
ガンドラックが主張するのは、1981年に始まった金利低下の40年トレンド(いわゆる「債券ブルマーケット」)が不可逆的に終了したということだ。
米10年債利回りは1981年の16%から2020年の0.5%まで40年間下がり続けた。このトレンドが終わったことを市場はまだ受け入れられていない。次の10-20年は金利が構造的に上昇する世界だ。
構造的な金利上昇の要因:
- 財政赤字の拡大: 米国の年間赤字は2兆ドルに迫る
- 脱グローバリゼーション: 安価な輸入品によるデフレ圧力の後退
- 人口動態: 労働人口の減少が賃金上昇を構造化
- エネルギー転換コスト: 脱炭素化は長期的にインフレ圧力
債券投資の「新しいルール」
低金利時代の債券投資は単純だった。金利が下がれば債券価格は上がる。30年間、債券を持っているだけで利益が出た。
しかし金利上昇局面では、ルールは逆転する。長期債を保有すれば価格下落で損失が出る。ガンドラックの推奨は短期債への集中だ。
「5%の短期債は、リスクゼロで5%のリターンを保証してくれる。株式のリスクプレミアムが3-4%であることを考えれば、株より債券の方が魅力的だ」
ガンドラックの「5%が新常態」という主張は、日本の投資家にとって深い意味を持つ。日米金利差が5%近くあるということは、ヘッジなしでドル建て資産を保有すれば年5%の金利収入が得られる一方、為替ヘッジをすれば年5%のコストがかかるということだ。
日本の機関投資家(生保、年金)は長年、米国債投資で安定的なリターンを得てきた。しかし為替ヘッジコストの急騰で、ヘッジ付き米国債投資は実質マイナスリターンになっている。これが日本マネーの「米国債離れ」を加速させ、米国の金利をさらに押し上げるという悪循環が生まれている。
個人投資家レベルでは、ドル建てMMF(年利5%前後)は2023年時点で最も効率的な「現金の置き場」だった。
ガンドラックの実績
ガンドラックは2008年にTCW(旧所属先)から追放された後、DoubleLine Capitalを設立。設立初年度に運用資産200億ドルを集めるという驚異的なスタートを切った。2011年のBarron’sの「金利が上がる前に長期債を売れ」という予測は完璧なタイミングだった。
しかし近年は予測の精度にムラがある。2020年に「株は暴落する」と予測したが、実際にはパンデミック後に株は急騰した。債券王といえども、マーケットのタイミングは至難の業だ。