「中央銀行が金を買っている。これは、彼ら自身が自分たちの通貨を信用していないことの証拠だ」

2024年初頭、グライアーツは中央銀行の金購入データに注目していた。2022年と2023年、世界の中央銀行は合計2,100トン以上の金を購入した——過去50年で最大の購入量だ。

中央銀行が金を買う理由

中央銀行は無限に紙幣を刷ることができる。しかし金は刷れない。彼らが金を買うのは、自分たちのシステムの脆弱性を誰よりも理解しているからだ。

— Egon von Greyerz, 2024年2月

購入の中心は新興国の中央銀行だ。

  • 中国人民銀行: 17ヶ月連続で金準備を増加(2024年1月時点で2,245トン)
  • ポーランド中央銀行: 2023年に130トン購入——NATO最前線の国が安全資産を積み上げる
  • インド準備銀行: 16トン追加——外貨準備の多様化戦略

脱ドル化(De-dollarization)の文脈

グライアーツは、中央銀行の金購入を「脱ドル化」の文脈で捉える。2022年のロシア制裁で、米国はドルを武器として使用した。ロシアの外貨準備3,000億ドルを凍結した。

この出来事は、世界中の中央銀行に衝撃を与えた。「米国と対立すれば、ドル資産は凍結されうる」——この認識が、金への回帰を加速させている。

  • ロシア制裁前(2021年): 世界の外貨準備に占めるドル比率は59%
  • 制裁後(2023年末): 55%に低下
  • 金の比率: 15%に上昇(10年前の11%から)
筆者の見立て

グライアーツの「金万能論」には割り引いて聞くべき部分もある(彼のビジネスは金の保管なので、ポジショントークの要素は否定できない)。しかし、中央銀行の金購入データは客観的事実であり、これを無視することはできない。

日本の投資家にとって重要なポイント:日本銀行は金準備をほとんど増やしていない(約846トンで横ばい)。一方、中国は急速に積み増している。もし将来、金本位的な国際通貨秩序に回帰する動きが強まれば、金準備の少ない国の通貨は相対的に弱くなる。

実用的なアドバイスとしては、ポートフォリオの5-10%を金関連資産(金ETF、金鉱株、現物金)に配分することは、通貨リスクへの保険として合理的だ。三菱マテリアルの純金積立のような、毎月少額から始められるサービスもある。

金価格の長期サイクル

グライアーツの長期予測は常に強気だが、歴史を振り返ると金にも大きなサイクルがある。1980年の金バブル(1オンス=850ドル)から2001年の底値(250ドル)まで、金は20年間下落し続けた。

「次の上昇サイクルは、1971-1980年の上昇を矮小化するものになる」とグライアーツは言う。楽観的すぎるかもしれないが、マクロ環境(政府債務の膨張、脱ドル化、地政学リスク)は確かに金にとって追い風だ。