「金が2,000ドルを超えたことに驚く人がいるが、驚くべきはドルの購買力が過去50年で98%失われたことだ」
エゴン・フォン・グライアーツは、スイスのプライベートゴールド保管会社 Matterhorn Asset Management の創業者であり、40年以上にわたりゴールドと通貨の関係を分析してきた。彼の視点は一貫している——問題は金の価格ではなく、通貨の価値だ。
ニクソン・ショックからの50年
グライアーツが常に参照するのは、1971年のニクソン・ショックだ。この年、米国は金本位制を放棄し、ドルは金との兌換性を失った。以降、すべての通貨は「不換紙幣(fiat money)」——政府の信用だけに裏付けられた紙切れ——になった。
1971年以降、すべての主要通貨は金に対して97-99%の価値を失っている。これは「金が上がった」のではなく、「通貨が破壊された」のだ。歴史上、すべての不換紙幣は最終的にゼロに回帰する。今回も例外ではない。
具体的な数字:
- 1971年の金価格: 1オンス = 35ドル
- 2023年6月: 1オンス = 約1,960ドル
- ドルの購買力低下: 約98%
なぜスイスで金を保管するのか
グライアーツのビジネスモデルは独特だ。超富裕層の顧客に対して、スイスの銀行システムの外にある専用金庫で現物ゴールドを保管するサービスを提供している。
彼がこのサービスを始めた理由は明確だ。「銀行に預けた金は、銀行が破綻すれば消える。現物を銀行の外で保管することだけが、真の安全保障だ」。
2008年のリーマン・ショック時、複数の大手銀行が金ETFの裏付けとなる現物金を持っていなかったことが判明した。グライアーツはこれを「紙の金(paper gold)」と呼び、現物保管の重要性を説く。
グライアーツの見解は極端に聞こえるかもしれないが、その根底にあるロジックは健全だ。通貨の購買力が長期的に低下していることは統計的な事実であり、ゴールドがその下落に対するヘッジとして機能してきたことも歴史が証明している。
日本の文脈で考えてみよう。1971年に1ドル=360円だった為替レートは、2023年には1ドル=140-150円。一見すると円高に見えるが、その間に日本の消費者物価は約3倍になっている。つまり、円もまた購買力を大幅に失っている。
グライアーツのメッセージは「全財産を金に変えろ」ではない。「通貨だけに頼るな。購買力を保存する手段を分散させろ」ということだ。ポートフォリオの5-15%をゴールドに配分するという考え方は、レイ・ダリオやレイ・ダリオも推奨しており、決して過激ではない。
「次の50年」への警告
グライアーツは、2020年代を「通貨の終わりの始まり」と位置づける。各国政府の債務は過去に例のない水準に達し、中央銀行はその債務を紙幣印刷で吸収する以外に方法がなくなっている。
「次の10年で、金は最低でも5,000ドル、場合によっては10,000ドルに達するだろう。これは金の価値が上がるのではなく、ドルの価値がさらに半分になるということだ」