「我々は、人類史上最も長く生きる世代となった。しかし皮肉なことに、それは最も経済的に不安な余生を過ごす世代になることを意味している」
ブラックロックのCEO、ラリー・フィンクが毎年発表する「会長からの手紙(Chairman’s Letter)」。2026年の書簡で彼が最も強い危機感を持って訴えたテーマは、気候変動でも地政学でもなく、「引退(リタイアメント)の危機」だった。
65歳定年という「過去の遺物」
フィンクは、現在の年金制度や「65歳で引退する」という社会モデルが、人々の寿命が短かった数十年前に設計されたままであることを問題視する。
医療の進歩により、人々は80代、90代まで生きるのが当たり前になった。しかし、65歳で引退し、その後の20年以上を既存の年金とわずかな貯蓄だけで乗り切ることは、現在のインフレ環境下では数学的に不可能に近い。
構造的なインフレが定着し、生活コストが年々上昇していく中、現金や低利回りの債券だけで老後資金を準備しようとするのは「確実な貧困への道」であると彼は指摘する。
「定年退職の危機」は、アメリカだけの問題ではない。日本においてはさらに深刻なマクロ課題である。フィンクの指摘は、我々が「お金の寿命」を「人間の寿命」に追いつかせるために、より高いリターンを求めて資本市場(株式などのリスク資産)にアクセスし続けなければならないという現実を突きつけている。
「歳をとったら株を売り、安全な債券と現金に変える」というかつての常識は、インフレ時代においては「購買力を自ら破壊する行為」になりかねないのだ。
資本市場を通じた「希望の再構築」
この危機に対するフィンクの処方箋は明確だ。それは、より多くの人々が資本市場(株式市場)の成長の果実を享受できるようにすることである。
「投資を一部の富裕層だけのものにしてはならない」と彼は語る。若いうちから長期的な視点で資産を形成し、複利の力を味方につけること。ブラックロックがETF(上場投資信託)の手数料引き下げ競争を主導してきた背景には、投資へのハードルを極限まで下げ、この「静かなる危機」に対抗するという使命感がある。
寿命が延びたことを「リスク」ではなく「恩恵」にするために。我々は、自らのポートフォリオとキャリアの設計図を根本から書き換えるよう迫られている。