「現金はゴミ(Cash is Trash)だ。多くの人は現金を最も安全な投資だと考えているが、それは完全に間違っている」

2020年1月のダボス会議でレイ・ダリオが放ったこの一言は、投資の世界を揺るがした。世界最大のヘッジファンドの創業者が、世界中のテレビカメラの前で「現金はゴミ」と断言したのだ。

なぜ現金は「ゴミ」なのか

ダリオの論理は明快だ。現金の実質リターン(名目金利 - インフレ率)がマイナスである限り、現金を保有すること自体が確実に購買力を失わせる「負の投資」だということだ。

1ドルを銀行に預けたとしよう。金利が0.1%で、インフレが5%なら、1年後にそのドルの購買力は約5%失われている。10年後には約40%だ。現金は「安全資産」ではなく「確実に価値が目減りする資産」だ。

— Ray Dalio, Davos 2020

具体的な数字で見てみよう。

  • 1971年の1ドルの購買力 → 2024年には約0.15ドル相当(85%の価値消失)
  • 日本の1万円(1990年)→ 2024年の実質価値は約7,500円相当
  • 米ドル預金の実質リターン(2020-2024年平均): 年-3%前後

「Cash is Trash」の文脈

この発言が2020年1月だったことは重要だ。ダリオは、FRBの大規模な量的緩和(QE)がドルの購買力を急速に毀損すると予測していた。そして2020年3月のパンデミック後、FRBはまさに史上最大の量的緩和を実施し、マネーサプライ(M2)は40%急増した。

ダリオの予測は完璧に的中した。2021年から2022年にかけて、インフレ率は40年ぶりの高水準に達し、現金の購買力は急速に蒸発した。

  • M2マネーサプライ: 2020年2月の15.5兆ドル → 2022年3月の21.7兆ドル(+40%)
  • CPI上昇率: 2022年6月に9.1%のピーク
  • S&P500: 2020年3月の底値から2021年末まで+113%
筆者の見立て

「Cash is Trash」は挑発的なフレーズだが、すべての状況で正しいわけではない。

2022年後半以降、FRBが利上げに転じ、短期金利が5%を超えると、現金(正確にはMMFや短期債)のリターンは劇的に改善した。年5%のリスクフリー・リターンは、株式のリスクプレミアムと比較しても魅力的だ。

つまり、ダリオの「Cash is Trash」は金利がゼロに近い環境で特に正しい。金利が上昇した環境では、現金は再び合理的な資産クラスになる。

日本の文脈では、2024年時点でも預金金利は0.1%以下であり、インフレは2-3%。日本においては、ダリオの「Cash is Trash」は2024年でもほぼそのまま当てはまる。

対策:

  • iDeCo/NISAの非課税枠を最大活用
  • 円預金をドル建てMMF、金、インデックスファンドに分散
  • 不動産(住宅)は「実物資産」としてインフレヘッジの機能を持つ

オール・ウェザー・ポートフォリオ

ダリオが「Cash is Trash」と言う一方で、彼が推奨するのはすべてを株に投じることではない。

彼のオール・ウェザー・ポートフォリオは、4つの経済環境すべてに対応する設計だ。

経済環境有利な資産
成長加速 × インフレ上昇株式、コモディティ
成長加速 × インフレ低下株式、長期債
成長減速 × インフレ上昇コモディティ、金、TIPS
成長減速 × インフレ低下長期債、現金

「未来を予測するのではなく、あらゆる未来に備える」——これがダリオの資産防衛の本質だ。現金はゴミかもしれないが、適切に分散されたポートフォリオは、どんな嵐にも耐えうる。