「米国債市場は世界金融システムの基盤である。この市場の信認が揺らげば、あらゆる資産クラスが連鎖的に崩壊する」
2024年初頭、ベッセントは複数のインタビューで国債市場の重要性を繰り返し強調した。マクロ投資家として数十年、国債市場を見てきた彼にとって、2023年秋の米10年債利回り5%突破は「警告シグナル」だった。
国債市場の構造変化
ベッセントが指摘する問題は単純だ。米国の国債発行額が急増する一方、最大の買い手たちが姿を消している。
FRBはQT(量的引き締め)で国債を売却している。中国は保有を減らしている。日本の生保は為替ヘッジコストの高騰で米国債投資の妙味が薄れている。では、誰がこの巨額の国債を買うのか? 答えは、より高い利回りを要求するヘッジファンドとプライマリーディーラーだ。
これが意味するのは、米国政府は借金をするために、より高い金利を払わなければならないという構造的な変化だ。
財務長官候補としての視座
ベッセントの発言は、単なる市場コメンテーターのものではない。次期政権の財務長官候補として、彼は政策と市場の接点を意識した発言をしている。
- 短期国債偏重の是正: イエレン財務長官のもとで短期債(T-Bill)の発行比率が上昇したことを批判
- 発行年限の長期化: 30年債や10年債の比率を増やし、借り換えリスクを軽減
- 財政赤字の段階的削減: 急激な緊縮は景気後退を招くため、成長と削減の同時追求を主張
ベッセントの国債市場論は、日本の投資家にとって極めて重要だ。日本の年金基金、生命保険会社は世界最大の米国債保有者グループの一つだ。彼らの投資行動が米国の金利を左右し、その金利が日米金利差を通じて円相場を動かす。
もしベッセントが財務長官に就任し、国債発行の構造を変えれば、日本の機関投資家のポートフォリオにも直接影響する。長期債の発行が増えれば、日本の生保にとっては「デュレーション・マッチング」の機会が増える。これは間接的に、円安圧力の緩和にもつながりうる。
つまり、ベッセントの財政政策は、東京の為替ディーラーのスクリーンに映る数字を変える力を持っている。
マクロトレーダーの強みと弱み
ベッセントの強みは、市場の反応を先読みできることだ。政策がどんなに正しくても、発表のタイミングや順序を間違えれば市場はパニックする。彼はその「順序」を熟知している。
一方、弱みは「市場を知りすぎている」ことかもしれない。市場の反応を気にしすぎれば、必要な改革を先送りにするリスクがある。マクロ投資家は「市場と戦う」ことを日常としているが、財務長官は「市場と共存する」ことを求められる。