「脆いシステムは変動で壊れる。頑丈なシステムは変動に耐える。しかし、反脆弱なシステムは、変動があるからこそ強くなる。投資ポートフォリオも同じように構築しなければならない」

思想家であり、元オプション・トレーダーのナシーム・ニコラス・タレブは、世界的ベストセラーとなった著書『ブラック・スワン(黒い白鳥)』において、市場には予測不可能な極端な事象が必ず発生し、正規分布に基づいた伝統的なリスク管理モデルは全く役に立たないと論じた。そして、そのブラック・スワンにどう対処すべきかという実践的な答えとして彼が提示したのが、「Antifragile(反脆弱性)」という概念である。

レストランのウェイターは、毎月安定した給料を得る(一見すると頑丈)。しかし不況でレストランが閉店すれば、すべてを失う(極めて脆い)。一方、タクシー運転手は日々の収入が不安定だが、不況でもゼロにはならない。小さなストレスに常にさらされることで、変化への適応力が鍛えられる(反脆弱)。

— Nassim Nicholas Taleb, "Antifragile"

脆さ(Fragility)の排除

タレブによれば、世界中の多くの投資家は「頑丈なポートフォリオ」を作ろうとして、結果的に「極めて脆いポートフォリオ」を作ってしまっている。その最たる例が「レバレッジ(借金)」である。レバレッジをかければ平時のリターンは跳ね上がるが、ブラックスワン(想定外の暴落)が起きた瞬間、マージンコールによって強制退場させられる。これが「脆さ」の正体だ。

したがって、反脆弱な投資家の第一のルールは「脆さを徹底的に排除すること」、すなわち「絶対にレバレッジを使わないこと」である。生き残りさえすれば、ゲームを続けることができるからだ。

反脆弱な「バーベル戦略」

では、どのようにしてポートフォリオに「反脆弱性(混乱から利益を得る性質)」を組み込むのか。タレブが提唱するのが「バーベル戦略」である。

これは、資産の90%を「極めて安全な資産(現金、米国短期国債、あるいはゴールドなど)」に置いて徹底的に資産を守り、残りの10%を「極めてハイリスクだが、アップサイドが青天井な資産(アウト・オブ・ザ・マネーのプットオプション、ベンチャー投資、暗号資産など)」に配分する手法だ。

中途半端なリスク(中リスク・中リターンと言われる一般的な社債やインデックス投資)は一切持たない。これにより、市場が大暴落してパニックになった時、90%の安全資産は無傷のまま、10%のハイリスク資産(プットオプション等)が100倍に膨れ上がり、ポートフォリオ全体としては「混乱から莫大な利益を得る(=反脆弱)」ことができるのだ。

XAUUSD=X

筆者の見立て:人生設計における反脆弱性

タレブの「反脆弱性」は、単なる投資手法を超えて、個人の人生設計・キャリア戦略においても最強のフレームワークとなる。

例えば、日本のビジネスパーソンが反脆弱になるためにはどうすればよいか。「大企業に依存して住宅ローン(借金)を抱える」のは極めて脆い(Fragile)状態だ。会社が倒産したりリストラされれば、ローンが破綻してすべてを失う。

逆に反脆弱(Antifragile)な状態とは、「生活費を極限まで下げて借金をゼロにし(守りの90%)」、「副業や起業、あるいはボラティリティの高い資産への少額投資で、失敗しても失うものは少ないが当たればデカい挑戦(攻めの10%)」を続けることだ。このバーベル戦略を人生に適用すれば、不況やAIの台頭といった「社会の混乱」が起きた時、むしろそれをチャンスに変えて飛躍することができる。予測不可能な現代において、最強の生存戦略である。