ソフトバンクグループを率いる孫正義氏は、過去数十年にわたり「次の巨大なパラダイムシフト」を見極め、そこに莫大な資本を投下することで帝国を築き上げてきた。PCインターネット、モバイルインターネット、そして今、彼の視線は完全に「AI(人工知能)」、とりわけ人間の知能を遥かに凌駕する「超人工知能(ASI: Artificial Super Intelligence)」へと向けられている。

2026年5月のソフトバンクグループ決算説明会において、孫氏はいつにも増して熱を帯びた口調で、世界中の投資家に向けてこう宣言した。

「今後10年で、人間の1万倍賢いASI(超人工知能)が確実に誕生する。その世界線において、今の我々の投資額は決して高くない。私はこのASIの実現のために生まれてきたのだと確信している。ソフトバンクグループは、この人類史上最大の革命に『全張り』する」

— 孫正義(2026年5月 決算説明会より)

ARMを中心とした「AIインフラ帝国」の構築

現在のソフトバンクグループの戦略の中心にあるのは、疑いなくARM(アーム)である。

これまでスマートフォン市場を制覇してきたARMの省電力アーキテクチャは、今やデータセンターやクラウドコンピューティングの領域へと急速に浸透している。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の報道によれば、生成AIの爆発的な普及により、データセンターの「電力消費問題」が世界的なボトルネックとなる中、消費電力を劇的に抑えられるARM設計のプロセッサは、次世代AIインフラにおける最重要パーツの一つとなった。

孫氏は単なるチップ設計企業としてのARMに留まるつもりはない。「Izanagi(イザナギ)」とも呼ばれる数兆円規模の極秘プロジェクト構想が報じられているように、ARMの技術を中核とし、AI半導体の製造、データセンターの建設、そして巨大な電力供給インフラ網の構築までを一手に担う「AIサプライチェーンの垂直統合」を目論んでいる。

中東オイルマネーの還流(リロケーション)

この途方もない野望を実現するためには、天文学的な資本が必要となる。フィナンシャル・タイムズ(FT)の分析によれば、孫氏が再び強力なタッグを組もうとしているのが、サウジアラビアなどの「中東の政府系ファンド(ソブリン・ウェルス・ファンド)」である。

中東諸国は、石油依存経済からの脱却(脱炭素化)を目指しており、次なる国家の柱として「テクノロジーとAI」への投資を急加速させている。ソフトバンク・ビジョン・ファンドでの経験と実績を持つ孫氏にとって、AIインフラへの巨額投資は、中東の思惑と完璧に合致する。

VoiceStack編集部の見立て:次に何を買うべきか

孫正義氏の「ASIへの全張り」は、狂気的にも聞こえるが、その裏で動く数兆円規模の資本の動き(マネーフロー)は、マクロ経済と株式市場に極めて現実的かつ巨大なインパクトをもたらす。

【マクロ経済へのインパクトと売買戦略】 これは旧来の産業(化石燃料)から、最先端のAIインフラ(半導体製造、特殊冷却、クリーンエネルギー)への強引な資金還流(リロケーション)のプロセスである。我々投資家は、ソフトバンクG(9984)の株価の上下だけに一喜一憂すべきではない。

  1. 半導体サプライチェーン(独占企業)へのロング 数兆円規模のAIファンドが組成されれば、その資金は最終的に「AI半導体を作るための装置」へと流れ込む。ASML(極端紫外線露光装置を独占)や、TSMC(世界最大のファウンドリ)、そして東京エレクトロンといった半導体製造装置メーカー(SPE)のチャートは、この巨大な資金流入を前にして強気のセットアップを形成し続けている。これらへの押し目買いは、極めて勝率の高いトレードとなる。

  2. カスタムシリコン設計(ASIC)関連への波及 ARMベースの独自AIチップを開発する動きが加速する中、Marvell Technology(MRVL)やBroadcom(AVGO)などのカスタムシリコン設計企業は、汎用GPUからのシェア奪取によるアップサイドを秘めている。

  3. 「エネルギーの再定義」とインフラ株 AIの最終的なボトルネックは「電力」だ。中東のオイルマネーがクリーンエネルギー(次世代原発や巨大太陽光発電)とAIデータセンターの統合施設へと向かう中、NextEra Energy(NEE)のような大規模再エネ事業者や、重電メーカーへの投資は、AIスーパーサイクルに乗るための「もう一つの入り口」となる。

破壊的イノベーションの夜明け前には、常に狂気的な資本投下が起きる。我々はその資金の「行き先」を先回りして買うべきである。