金利を上げても原油は一滴も増えない。それでもECBが利上げしたのは、原油高そのものではなく、エネルギー以外の価格と賃金へ波及するのを止めるためだ。
Lagarde: 本日、ECBの主要3金利を25ベーシスポイント引き上げることを決定した。
クリスティーヌ・ラガルド総裁は6月11日、主要3金利を0.25ポイント引き上げる決定が全会一致だったと説明した。ECBは2026年の総合インフレ率を3.0%、実質成長率を0.8%と予測した。物価見通しは上がり、成長見通しは下がる。需要を冷やす通常の利上げでは解きにくい組み合わせだ。
5月のユーロ圏インフレ率は3.2%、エネルギーは10.9%だった。重要なのは、エネルギーと食品を除く物価も2.5%へ、サービス価格も3.5%へ上がったことだ。ECBは企業の仕入れコストが上昇し、販売価格を引き上げる意向が強まったと説明した。
一次効果と二次効果
原油価格の上昇がガソリン代や電気代を直接押し上げるのが一次効果だ。輸送、包装、化学、食品、ホテルなどが上昇分を販売価格へ移し、労働者が実質賃金を戻すために賃上げを求めるのが二次効果になる。
一度限りのエネルギー高なら、翌年には前年比の押し上げが消える。ところが二次効果が広がると、原油が下がってもサービス価格と賃金が高い伸びを続ける。ECBが抑えたいのはこの持続性だ。
利上げで変えられるもの、変えられないもの
変えられないのは、戦争、輸送障害、油田の生産量だ。変えられるのは、企業と家計の借入需要、値上げを受け入れられる総需要、将来も物価が上がるという期待である。
金利上昇で住宅投資や設備投資が鈍れば、企業はコスト増を全額転嫁しにくくなる。賃金と価格が互いを追いかける力も弱まる。一方で、家計はエネルギー代の増加に加えて住宅ローン負担も受けるため、実質所得と景気はさらに傷つく。
このため供給ショック下の利上げは、物価を無料で下げる政策ではない。将来のインフレ定着を防ぐため、現在の需要を削る政策だ。ラガルド氏がこの決定を「保険」ではなく通常の金融政策判断だと説明したのは、総合物価だけでなく基調的な物価へ広がり始めたと判断したからである。
ECBは「原油高だから機械的に利上げした」のではない。エネルギー10.9%に加え、サービス3.5%、企業の販売価格意向、短期のインフレ期待を見て、二次波及の確率が高まったと判断した。
ただし長期のインフレ期待はおおむね2%付近にとどまっている。ここが崩れていない以上、連続利上げが自動的に決まったわけではない。原油価格が下がり、企業の価格転嫁と賃金への波及が止まれば、一度の利上げで様子を見る余地はある。
この話の核心
供給ショックに対する金融政策の目的は、原油価格を下げることではない。原油高を理由に、あらゆる企業が値上げし、労働者と企業が将来の高インフレを前提に契約を変える流れを止めることだ。
景気悪化が利下げを保証しないのは、供給ショックが成長を下げながら物価を上げるからである。ECBの次の判断を分けるのは原油価格だけではなく、サービス価格、企業の販売価格、賃金が原油と切り離された後も上がり続けるかだ。