BlackRockの強さは、15.3兆ドルを運用していることだけではない。他社が運用する資産まで管理するシステムを売り、そのシステムへ公開市場とプライベート市場のデータを集めようとしていることにある。

Fink: BlackRockは公開市場の運用会社、大規模なプライベート市場の基盤、そして世界的なテクノロジー企業だ。

ラリー・フィンク氏の発言は、BlackRockに三つの事業があるという意味だ。

  • 公開市場の運用:株式や債券など、取引所や市場で価格が日々つく資産を運用する。iSharesのETFはここに含まれ、運用資産は6.25兆ドルに達した。
  • プライベート市場の運用:非上場企業への融資や出資、不動産、インフラなどを扱う。売買価格が毎日つかず、契約条件も案件ごとに違う。BlackRockの残高は3290億ドルだった。
  • テクノロジー:機関投資家が保有資産、リスク、売買、法令順守、会計、顧客報告を管理するシステム「Aladdin」を提供する。2026年第2四半期のテクノロジー・サブスクリプション収入は5.66億ドルで、前年同期比13%増えた。

同じ決算の15.3兆ドルという数字と、Aladdin上で顧客が管理する資産の規模は別物だ。前者はBlackRock自身が運用を受託した残高。後者には、年金基金、保険会社、銀行、他の運用会社が自ら運用する資産も含まれる。

BlackRockの運用資産15.3兆ドルの顧客別構成とプライベート市場の手数料構成を示す図
運用資産の中心はETFと機関投資家。プライベート市場は残高の約2%だが、基本手数料の約11%を生む。

Aladdinは何をしているのか

大きな年金基金が、株式はシステムA、債券はシステムB、プライベートクレジットはExcelで管理しているとする。市場が急落した日に「全資産を合計すると、どの国、金利、企業にいくらさらされているか」を出すには、別々のデータを集め、通貨と評価時点をそろえなければならない。

Aladdinは、公開市場の保有残高と価格を取り込み、リスク計算、売買注文、コンプライアンス確認、運用報告までを同じデータ上で動かす。社内の運用担当、リスク管理、事務、経営陣が違う表計算を持つのではなく、同じ残高を基準に話せるようにする業務システムだ。

難しかったのがプライベート市場である。非上場企業への融資は、金利、返済順位、担保、財務制限条項が案件ごとに異なる。価格も毎秒更新されない。この領域を扱うのが、BlackRockが2019年に買収したeFrontだ。プライベートエクイティ、インフラ、不動産、プライベートクレジットの投資実績、会計、資金の出入り、保有先を管理する。

さらにBlackRockが買収したPreqinは、個々の運用会社の帳簿ではなく、市場全体のファンド、資金調達、運用成績、投資先データを集める。2026年5月には、ファンド単位だけでなく融資先のレバレッジ、デフォルト、回収率まで比較できるプライベートクレジット機能を発表した。

つまり、eFrontが「自分の保有資産を管理する帳簿」、Preqinが「市場の中で比較するための物差し」、Aladdinが「公開資産も合わせて全体のリスクと業務を動かす司令塔」になる。

BlackRockの運用商品、eFrontとPreqinのデータ、Aladdin、機関投資家をつなぐ構造図
15.3兆ドルはBlackRock自身の運用残高。Aladdinは、その外側にある他社の資産管理業務にも使われる。

何がすごいのか

一つ目は、収益源が異なることだ。ETFなどの運用手数料は運用残高と市場価格に左右される。一方、Aladdinは契約型のテクノロジー収入を生む。市場が下がって運用残高が減る局面でも、業務システムは簡単には停止できない。

二つ目は、プライベート市場の採算性だ。2026年第2四半期時点で、プライベート市場はBlackRockの運用資産の約2%にすぎないが、基本手数料収入では11%を占めた。公開市場より残高当たりの手数料が高いため、3290億ドルという残高以上に利益への影響が大きい。

三つ目は、顧客との接点が増えることだ。顧客がBlackRockのETFを買わなくても、Aladdinを使えばテクノロジー収入になる。そこへeFrontとPreqinを接続すれば、同じ顧客に非公開資産の管理とデータも提供できる。「一つの商品を売る」のではなく、運用業務の複数工程から収入を得る構造だ。

ただし、これはBlackRockだけができる事業ではない。競合するSimCorp Oneも、公開・非公開資産を同じ基盤で管理し、売買から会計までをつなぐ。BlackRockの優位性は独占技術ではなく、自社で巨大な運用事業を持ち、その顧客網へAladdin、eFront、Preqinをまとめて提供できる点にある。

Voicestack の見立て

BlackRockが狙っているのは、世界中の資産を自社商品へ集めることだけではない。どの会社の商品を買う場合でも、その前後のデータ管理とリスク計算をAladdin上で行ってもらうことだ。

これは決済端末を置く会社に近い。客がどの商品を選んでも、会計を通れば利用料と取引データが残る。BlackRockは「売れる投資商品を作る会社」から、「投資業務が通過する場所を提供する会社」へ収益源を広げている。

ただし、Aladdinを導入してもプライベート資産に毎日の市場価格が生まれるわけではない。報告頻度が低い、評価モデルに仮定が入る、同じ企業への間接的な重複投資を完全には捉えにくい、という問題は残る。見える化とは、暗闇を昼間に変えることではなく、懐中電灯の範囲を広げることだ。

この話の核心

BlackRockは、ETFで低コストの公開市場を押さえ、プライベート市場で高い手数料を得て、Aladdinで他社の運用業務からも継続収入を得る会社へ変わっている。

成否を分けるのは15.3兆ドルがさらに増えるかだけではない。顧客が公開・非公開資産を一つの基盤で管理したいと考えたとき、AladdinがSimCorpなどの競合より選ばれるか。そして、BlackRock自身が運用会社であることを、顧客が強みと見るか利益相反の懸念と見るか。この二点がプラットフォーム戦略の勝負になる。